【コンサート覚書き】ムン・ジヨン ピアノリサイタル
ムン・ジヨン ピアノリサイタル@紀尾井ホール
Mun Jiyeong Piano Recital @ Kioi Hall Tokyo
最近の、若手韓国人の国際コンクールでの活躍はめざましく、海外に留学せずに国内の先生のみに師事して優勝してしまう人が後を絶たない。
今日聴いたムン・ジヨンもそのひとりで、18歳で高松とジュネーブ、19歳でブゾーニ国際コンクールを制したというのと、オール・シューマンという魅力的なプログラムに惹かれて足を運んだ。
かなり大柄な人で、蓋の開いたピアノと同じくらいの背丈があり、腕も付け根から肘までがしっかりと太いし、さぞかし良い音が鳴るのではと期待したが、まず初めのアラベスクから音色変化の乏しさに首をかしげる。
フレーズが非常に長く、レガートが持続して静寂を大事にする演奏は好感が持てる。だが、静かな部分は拍感がなくなってのっぺりしてしまうので、どうしても単調に聞こえてしまう。
次の幻想曲の出だしは身体の動きと音が見合わないのがもどかしく、この情熱的な第1楽章がそうは伝わって来ないのが歯がゆい。第2楽章になると、その律動は安定した技術に支えられてようやく息をし始めた感があり、難所もノーミスで楽々と弾き切るし、シフトペダルを使用した部分はハッとする音色でリズミックな音律がとても生き生きと聞こえてきた。
後半、花の曲に続いて演奏されたソナタ第1番 嬰へ短調がさまざまなコンクールで弾いてきただけあって、自在な表現力を伴っており、一番集中して聴いた。
特に感心したのが第3楽章の最初のトリオで、しなやかな歌い方と即興的なフレーズ感がシューマンらしい楽想を見事に作っていた。
コンクールで勝ち抜くには選曲もとても大切で、スタッカートや連打の機敏さとモノトーンな音色、そして徹底的に教え込まれたのであろうポリフォニーを弾き分ける技術を持つ彼女に、このソナタは非常に合っている、と納得させられた。
まだ22歳と若いので、是非海外に出て様々な景色や空気、そして言語に触れて、沢山の経験をして欲しいと願うばかりだ。
アンコールはシューマン=リストの献呈とトロイメライ。
〔facebookパーソナルページより転載〕