ピョートル・アンデルシェフスキ
Piotr Anderszewski Piano Recital@Sumida Triphony Hall&Yamaha Hall
ブリュノ・モンサンジョンのドキュメンタリー映像を観て以来、ずっと気になっていたアンデルシェフスキの演奏をようやく生で聴いた。しかも2日連続。
初日のすみだトリフォニーホールではオールバッハ・プログラムで、平均律第2巻よりハ長調、変イ長調、嬰二短調とイギリス組曲第3番、第6番。
まず音が美しい。
脱力した上半身と確実な打鍵から生み出される音楽は即興性に富み、臨場感というのだろうか、今この瞬間の尊さを感じさせてくれる。
それぞれの声部に濃淡が付いて、弾き分けが徹底している。調性が変わる度、様々に音色が変化していき、フーガでは対旋律を際立たせた時の主旋律の儚げな響きが、そして組曲では生きた拍感が舞曲特有のリズムの愉しみを聴く側に与えてくれる。
目の前の音楽に純粋に、ひた向きに身を捧げるアンデルシェフスキ。光と陰、歓びと哀しみ、恐れと救い、叫びと嘆き、諦めと希望、迷いと悟り….バッハには全てが内在することを実感させてくれる。所々に入るトリルやヴァリアンテの品の良さといい、曲間の運び方や呼吸に表れる様式美といい、私にしてはめずらしく(笑)久しぶりにあれこれ考えず、紡ぎ出される音律に身を委ねて聴くことが出来た。
アンコールにベートーヴェン バガテルop. 126-1、ショパン マズルカop. 59-1、ヤナーチェク 草陰の小径第2集。
翌日のヤマハホールでは、当初予定していたプログラムが一部変更になり、結局モーツァルトの幻想曲ハ短調とソナタハ短調以外は前日に聴いた曲になった。
前日とは違い、強音の響きを扱うのが難しい空間で、イギリス組曲は対比よりも弱音の中での表現を試みていて、ヤナーチェク 草陰の小径第2集やアンコールのショパン マズルカハ短調の語り口は、前日の演奏よりもさらに奥深く、立体的なものになっていた。
自分と同世代なだけに、今後もますます目が離せないピアニストだ。
〔facebookパーソナルページより転載〕