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【アート覚書き】渡辺省亭〜欧米を魅了した花鳥画〜展
このご時世でアート鑑賞もとんとご無沙汰している。それでも昨年末から春にかけては 琳派と印象派展@アーチゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)、田中一村展@千葉市美術館、山陰に足を延ばした際に、島根県立美術館や足立美術館にも訪れて英気をいただいたが、先日は束の間の夏休みに三島にある佐野美術館に、渡辺省亭展を観に出掛けた。今春、藝大美術館で開催のはずが緊急事態宣言のため会期途中で中止となり、とても残念に思っていたところ、岡崎と三島に巡回することを知り、是非にと友人に車をお願いしていた。
渡辺省亭は明治から大正を生きた日本画家で、欧米での評価は高いものの国内ではまだあまり知られておらず、今回が初めての回顧展だそう。28歳の時に日本画家として初めてパリを訪れ、見事な筆捌きでマネやドガなどの印象派の画家に影響を与えたと言われている。5歳で絵の楽しみを覚え、浮世絵の模写をしたのち書を徹底的に3年間学び、そのあとに人物画を描き、そして真骨頂である花鳥画を描いていく。68歳で亡くなるまで生涯弟子を取らず、自分を売り込むことも嫌い、黙々と注文を受けた作品をこなしていたようだ。一昨年あたりだったか、赤坂・迎賓館の内部公開を観たときに、豪華絢爛な広間の壁にいくつもの花と鳥の図柄の七宝が飾られていたのだが、その元絵を描いたのが省亭だった。
さほど広くない展示室に足を踏み入れるとまず、チラシにも使われている『牡丹に蝶の図』がある。縦に一本伸びる添え木を巧く構図に取り入れ、枠の線を描かずに水彩のグラデーションで花びらの色と重なり合う質感を表現する。奥に朽ち行く花を描くことで、手前の紅白の牡丹の彩りがより一層感じられる。風に散りながらおしべがはらはらと地に落ちるさまをも描き、旬を迎えて咲き誇る花との対照を描く。蜜を吸うクロアゲハと遠くのモンシロチョウ、この絵では蝶よりも花の生命力が優っている。
その近くには『春野鳩之図』。春の野辺の草花たちを鳩の周りに散りばめ、枝垂れ桜と綿毛のタンポポ、そしてツクシの縦のラインを韻を踏むように生かしつつ、主役の鳩に目を向けさせる。三羽の鳩はそれぞれ色合いと体の向きが違うのだが、驚くのは良く見ると三羽とも口角が上がっていること。観ている側を自然と和やかな表情にさせる。
その隣の『雨中桜花つばめ図』もまた風情がある。花盛りの桜の木で燕三羽が雨宿りしているのだが、春雨の寒さに毛をふくらませた燕の体が印象的で、三羽の中でも後ろ姿の燕を最前に描くことで、その場の温度や寂しさまで漂わせている。
『月夜杉木菟之図』は、背後にそびえる大きな幹の木を見るからには、そのミミズク(トラフズク)まではかなりの距離があると思われるのだが、かなり大きな尺で描かれており、その存在感には目を見張る。思わずドイツ留学中に森の中で見たミミズクを思い出した。(かなり遠くにいるのにもかかわらず、目が合った瞬間嬉しいのと同時にドキッとした…)絵具を幾重にも薄く塗り重ねて実現した羽の色味や質感はまさに3Dのようにリアルで、その観察眼には恐れ入ってしまう。
63歳で描いた『猛虎の図』は、ずっしりと風格のある虎に今現在の自分を重ね、左上を見上げる凛とした眼差しに、未だ筆を持ち続けて自身の境地を開いていこうとする志が感じられた。
そして展示の最後には、数ヶ月前に所在が明らかになり今回急遽追加で展示された『春の野辺』。これは1918年に描かれ、蝶の彩色のみを残して絶筆となった作品。蓮華草の小さな花びらや細い葉の一枚一枚をこれまでよりも色濃く描き、その筆運びに一呼吸一呼吸を合わせて描かれたかのような凝縮感に胸を打たれた。
鑑賞後は美術館の敷地にある日本庭園を歩き、近くの柿田川公園で水を汲み、名物の鰻をいただいて帰りました。
〔facebookパーソナルページより転載〕
【演奏会】『浪漫の花束』第2回「メンデルスゾーン」
三宅 麻美 ピアノリサイタル・シリーズ
『浪漫の花束』第2回「メンデルスゾーン」
2021年12月20日(月)19時 開演
銀座・王子ホール
ピアノ 三宅 麻美
ゲスト 辛島 安妃子(ソプラノ)
プログラム
7つの性格的小品集 op. 7より
《無言歌集》より
狩、 詩人の竪琴、 デュエット、 胸騒ぎ
民謡、 五月のそよ風、 葬送行進曲
ヴェネツィアの舟歌、 春の歌、 紡ぎ歌ほか
歌曲より
告白、 新しき恋、 歌の翼に
ズライカ、 春の歌、 花束、 葦の歌
一晩中夢の中で僕は君を見るんだ
夜の歌、 恋人の手紙、 月ほか
【演奏会】2021年8月1日 第30回よこはまマリンコンサート
これまで何度か出演させていただいているおん・ぶん・きょう主催のマリンコンサート、30回の節目を迎える今年はサン=サーンスの《動物の謝肉祭》をマリンオーケシトラの皆さまと弾かせていただけることになりました! 8月1日日曜日、是非お越しください
横浜音楽文化協会主催〈おん・ぶん・きょうスペシャルステージ〉
第30回よこはまマリンコンサート
昨年の第29回は残念ながら中止となってしまいました夏の風物詩、よこはまマリンコンサート。
今年は30回記念公演を神奈川県立音楽堂にて開催いたします。『フランス音楽の薫り』と題し、没後100年のサン=サーンス、生誕100年のピアソラの作品など、フランスにまつわる名曲の数々をおん・ぶん・きょうが誇る会員の演奏で是非お楽しみください。
ホールのガイドラインにしたがい、万全のコロナウィルス感染症対策のもとで開催いたします。
皆様のお越しを心よりお待ち申し上げます。
お問い合わせ・チケット予約
*神奈川芸術協会045-453-5080 www.kanagawa-geikyo.com
*チケットかながわ0570-015-415
*チケットぴあ0570-02-9999(pコード195-302)
*イープラス eplus.jp
【演奏会】4月18日(日)やまとde♪クラシック 2021
新型コロナウイルス感染症の影響により延期となりました「やまとでクラシック2020」は、2021年4月18日(日)に開催の運びとなりました。
◆ ◆ ◆
『やまとdeクラシック 2021』
2021年4月18日(日)17時 開演
会場:大和市文化創造拠点シリウス やまと芸術文化ホールサブホール
ピアノ 三宅 麻美
ゲスト出演 NHK交響楽団オーボエ奏者 和久井 仁
プログラム
ベートーヴェン ピアノソナタ《熱情》より
チャイコフスキー《四季》より
ショパン 雨だれの前奏曲
フンメル 序奏と主題、変奏曲
シューマン 三つのロマンス より
ドヴォルザーク 新世界より(家路)
サンサーンス 白鳥
ボロディン 夜想曲
バーンスタイン 《ウェストサイド物語》より マリア〜トゥナイト
ほか
『音楽の友』2020年2月号「音楽評論家・記者が選ぶコンサート ベストテン2020」選出
2017年の「ベートーヴェンピアノソナタ全曲演奏会最終回」に引き続き、2019年12月の「ベートーヴェン・リサイタル」(初期、中期の変奏曲とディアベリ変奏曲)を、『音楽の友』2020年2月号のコンサートベストテン2020に選んでいただきました!
【アート覚書き】永青文庫名品展
コロナ禍のせいもあってずっと叶わなかった美術観賞。本番からも解放されてようやく足を運ぶことができました(といってももう2週間前のことです)。
記念展示を開催していた永青文庫に初めて訪れたので、備忘録として…
副都心線雑司ヶ谷駅から都バスに乗り、3つ先の停留所、目白台三丁目で降りる。閑静な住宅街、木々に囲まれひっそりと佇む永青文庫は、肥後熊本五十四万石の細川家に代々伝わる文化財を保存し、研究・一般公開のために、16代細川護立が立ち上げたもの。神田川沿いまで斜面を利用して広大な庭園も隣接している。
今回の展示のお目当ては菱田春草(1874〜1911)の2枚の日本画。
まず、1909年に描かれた『落葉』は全部で12枚の屏風絵。日本画において、それまでのように線を使わずに描く「無線描法」ながら、いやそれゆえに木肌の立体感をここまで表現できることに驚かされる。葉元から葉先へ薄緑から色あせた黄土色、そして焦げ茶へと変化していく、枯れゆく落葉の時の移ろいと生の名残。枯れる様すら美しく、愛おしく描く。腎臓から来る目の病に侵されながら、虫食いの形や葉の反りなど、落ち葉一枚一枚に愛情を注ぐ。地面に描かれた四十雀のつがいはどんな状況でも命はたゆまず続いて行くたくましさをあらわし、細枝に留まり、さりげなく佇む色鮮やかなジョウビタキを描くことで、朽ちてゆく落葉の侘しさがより伝わってくる。常緑樹の松の緑の濃さは、色というより塗りの濃さとも言え、筆使いに生への執着が感じられる。画面の奥には、幻想的でありながら凛とした存在感を感じさせる木々等、いくら見ていても飽きない。
そして、何年前だろうか、近代美術館での菱田春草展以来の再会となる『黒き猫』。『落葉』を描いた翌年、死の前年に書かれた猫の絵。視線はまず黒猫に注がれ、その歌舞伎役者のような鋭い眼差しや、左右に開いた両耳から、猫自身の緊張感を感じとることができる。そして背景や木肌との輪郭のぼかしで巧みに表現したフォルムや、指先の丸みのやわらかな質感に触れる。猫の上に目を向けると、描かれた柏の葉の形の良さに魅了される。どの葉も表を向いているのに、その照らし方や微妙な大きさの差異、虫食いの形などの変化に趣を感じる。そして全体を観ると、深い茶緑と金色、猫の黒のコントラストが見事に一枚に収まっている。
横山大観の作品も多かったが、なぜかいつもあまり惹かれない。竹内栖鳳の描いた猿の掛け軸は、開いた両腕とその表情がなんとも言えない脱力感を与えてくれて微笑ましく、彼の生き物に対する審美眼をあらためて感じさせてくれた。他に国宝の日本刀や重要文化財の仏像、陶器など所狭しと展示されていた。
観賞後は、秋晴れの庭園をのんびり散策して、神田川沿いを江戸川橋まで歩いて帰路につきました。
〔facebookパーソナルページより転載〕