【アート覚書き】REIMS ランス美術館コレクション 風景画のはじまり
かなり遅くなりましたが、久々の美術館探訪録です。
ちょうど一ヶ月ほど前になるが、茨城県近代美術館の〝REIMS ランス美術館コレクション 風景画のはじまり〜コローから印象派へ〟展へ出掛けた。初めての水戸、駅から川沿いを散歩しながら15分ほどで湖畔に建つ美術館に着いた。
贅沢な空間遣いのロビー、幅広の階段をゆったりと上り展示室へ入ると、大好きなジャン=バティスト・カミーユ・コローのコレクションの豊富さにまず驚く。広い展示室すべてがコローの作品で飾られており、全部で16点もある。柔らかく、深みのある緑を使った樹木がメイン。水辺であることが多く、それに恩恵を受ける人々が数人描かれる。時刻や天気によって温度や湿度が違うように空も色味や透け感が様々で、光や明るさを感じさせる白色の扱い方が素晴らしい。
『岸辺の小舟に乗る漁師』では、明るい薄曇り空の下、小舟に座りながら網の作業をする漁師を、水辺にいる一頭の牛が後ろから優しい眼差しで見守っている。開けた視界と無数の白い点が春を表している。
『川を渡る』は遠くに入道雲がある夕暮れの空、対岸の古城が霞んで見えるように淡い茜色で描かれている。真夏の陽射しを避け、森の繁みに涼みにきた帰り道だと気付かされる。
次に展示されているバルビゾン派のドービニー、クールべ、アルピニーなどはより写実に近い。光線もくっきりとして時刻もピンポイントで狙ったかのような絵を観ると、なおさら先ほどのコローの空気感が特別のものとして感じられる。彼の絵の前ではいつも深い呼吸ができる。それこそがずっと観ていられる理由だと思う。
コローに“空の王者”と言わしめたウジェーヌ・ブーダンは、ノルマンディーの広く雲の多い空を巧みに描き分けている。『ベルク、船の帰還』では低いところに点在する暗い雲と、紫がかっている高く抜けた空の対比が見事で、遠くの白い明るみが、嵐の過ぎ去ったあとの安堵感を感じさせる。
と思いきや、ピエール=オーギュスト・ルノワールの描く『ノルマンディーの海景』はまったく別物。空は水色とラベンダーの2色だけで、海辺には明るい土の色にグレーや何色もの緑と赤が使われているのが印象的だった。
そして印象派のシスレー、ピサロ、モネへと続く。
アルフレッド・シスレーの絵にも良く感じることだが、光を感じられる鮮やかな色遣いと奥行きのある空間描写が見事で、自然とその場で空気を吸っているかのような錯覚に陥る。
クロード・モネに特徴的な無数の小さな筆跡は、細胞や肉片でもあり、吐息のようなものかもしれない。それは気迫とも意志とも捉えられるように、価値あるものとして存在している。様々な色を上から重ねていく独特な色彩感はまさに直感で成り立ち、それは美への好奇心や探究心からくるものなのだろう。
『べリールの岩礁』は元々この茨城県近代美術館が持っている『ポール=ドモワの洞窟』(同年に同じ場所で描かれたもの)とランス美術館が持っているものが並べて飾られた意欲的な企画展示で、写真もここだけはOK。ベリールとはブルターニュ地方の小島で、モネは2ヶ月近くそこに滞在して刻々と変化する手付かずの海岸を、同じ構図で何枚も描いたそうだ。荒波によって出来上がった断崖、切り立つ岩と青々とした海がダイナミックな風景を生み出しており、自然界の凄みを感じざるを得ない。積みわら、ルーアン大聖堂、睡蓮など連作を描くきっかけになったそうだ。
このご時世なかなか遠くへは行けず、マスクをしたままの生活に慣れすぎてしまったけれど、久しぶりに向こう(ヨーロッパ)の風を感じられた気がした。常設展もかなり見応えあり。
〔facebookパーソナルページより転載〕