@五反田文化センター音楽ホール
Alexey Lubimov Piano Recitals
先週と今週、二週にわたってアレクセイ・リュビモフのリサイタルへ。
一夜目はなんとご本人、PCR証明の関係で台湾からの予定の飛行機に乗れず、開演時刻になってもまだ到着してないとのことで、20分も遅れて始まった。空港から到着してリハもなしにすぐに舞台へ出たのにも関わらず、第一音から美しすぎる音像を紡ぎ出し、ウクライナの作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフの世界へグイグイと引き込んでいく。
次のモーツァルトソナタK533も、疲れを感じさせるどころか何とも楽しげでエネルギッシュ!フレーズ始めにパワーを集めて流れていく独特の奏法が彼の身体と一体となって、独自の語り口で聞き手を惹きつけ続ける。
78歳であることは全く感じない意欲に満ちたアプローチに、無事に再びリュビモフの生演奏に触れられたことを安堵し、心から嬉しく思う。(コロナ前に引退宣言をしていたのと、ウクライナ侵攻が始まってからモスクワでシルヴェストロフを弾いて警察沙汰になったことを危惧していたので)
曲目変更のあった後半、ブラームス後期作品op. 117と118はさすがにこの日の疲れが見え始めたのだが、二夜目の冒頭に弾かれたop. 116の素晴らしいこと!
一見乾きすぎると感じさせるその響きが内声の動きを際立たせ、全体のテクスチュアを見事に浮き上がらせる。雄弁に、そして繊細に、後期ブラームス特有の深淵な響きのグラデーションを実現する。
『我が友、シルヴェストロフに捧ぐ』と題されたこの夜のプログラムで弾かれたシルヴェストロフも、「あたかも音楽が聞き手の記憶に慎ましく触れ、内なる意識の中で鳴り響くように、そして聞き手の記憶そのものからこの音楽が歌われるかのように」という作曲者自身の指示通りに、我々の郷愁を潜在意識の領域から引き出していく。
アンコールで弾かれたアルヴォ・ペルトの小品を聴いて、かつてすみだトリフォニーホールの舞台上で聴いたロシア・アヴァンギャルドの夕べを思い出し、その再演も是非聴きたいと思った。