渾身の演奏だった。
どれも確信に満ちた、落ち着きのあるテンポ感で始まり、ト長調のオープンな調性から苦悩のニ短調へ、そして幅広なハ長調へと調性感を巧みに弾き分ける。オルガニストとしても演奏活動するだけあって、重音の響きの安定感が際立っている。(特に第3番プレリュードのオルゲルプンクトの持続感が素晴らしかった!)
第3番まで弾いて休憩15分、そして第4番と第5番のあと再び休憩15分、18時に開始して終わったのはアンコール含めて22時近く。
かなり遅めのテンポ設定なのと、圧の強い弓使いのために、サラバンドなど遅い舞曲では引き延ばされる緊張感に聴いている方は正直疲れてしまう面もあるが、モノトーンな音色がピタリとはまった第5番のサラバンドなどは素晴らしかったし、ひとつの舞曲を取っても、出だしはさりげなくリズムやメロディーを扱い、繰り返しをしながら活気を増して最後に向けて高揚していくストーリー性のある構成は非常に説得力があり、振り返ってみると6曲全曲の流れの上でも、第5第6番に向けて焦点を定め、終盤のガヴォットからジーグにかけては曲集全体のクライマックスを見事に作り上げていた。こんなに集中してこの曲集を聴いたのは初めてかもしれない。
改修後のサントリーホールブルーローズは舞台をぐるっと囲むように座席が置かれていて、ちょうど弾く姿を真右から眺める場所だったので、弓さばきをいつも以上に興味深く観察しながら聴いた。弾いている時弓から、松ヤニの粉が音楽に合わせて空中にフワッと飛び散るのを初めて見た。
そして休憩2回とも男子トイレに長い列が出来ているのを見て、普段の演奏会との客層の違いをまざまざと感じるのだった…。
〔facebookパーソナルページより転載〕