『音楽の友』2018年3月号「ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全曲演奏会」最終回

『音楽の友』2018年3月号153ページ「Concert Reviews」に「ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全曲演奏会」最終回(2017年12月4日。ヤマハ銀座コンサートサロン)の批評が掲載されました。(筆者:音楽ジャーナリスト 上田弘子氏)

「弦作品も演ることで理解が深まる」と、三宅が2010年に開始した「ベートーヴェン/ソナタ全曲演奏会」(p、vn、vcソナタ、pトリオ)。弦の方は2013年に完奏し、このたびピアノ・ソナタの最終回(全9回)。毎回よくぞここまでと驚異の読譜と表現力で、〝楽聖〟最後の3つのソナタでも培ってきた事が示された。1ページ目から変化に富んだ「第30番」を、三宅は粛々と弾き進める。緩急も前後の脈絡が完全理解のため自然で、新たなソナタ形式を示した作曲家の代弁のよう。「第31番」は優しいピアノ・トリオのような第1楽章と決然とした第2楽章との差異が新鮮で、第3楽章への繋ぎがまた巧い。この第3楽章は当夜の白眉。静寂のアダージョは名歌手のように歌われ、底から静かに立ち上がってくるフーガの神々しさ。少しずつ重なり厚くなる主題は聴き手の五臓六腑にまで刺さる。それも感動の和声で。そして最後の「第32番」。冒頭の減七の跳躍を三宅は左手で取り、その良質の緊迫感で畳み込んで行く。確実に刻むリズムに独語の発音が在り、ゆえにすべての音符に説得力。終楽章の主題は、より厳格な拍感の方が以降の変奏が際立ったのではと、名手ゆえにこちらも欲が出る。いずれにしても祝・完奏。

(12月9日・ヤマハ銀座コンサートサロン)〈上田弘子〉

 

【コンサート覚書き】ブルガリアンヴォイス・アンジェリテ

年末からこじらせた風邪がようやく治ってきたので、楽しみにしていた公演へ思い切って出掛けた。

ブルガリアンヴォイス・アンジェリテ@武蔵野市民文化会館
Bulgarian Voices Angelite

20人のアカペラ女性合唱。ブルガリアの地方に伝承する民謡から、民謡を基にした現代風な合唱曲まで、地声に近い独特な発声とハーモニーで観客を魅了する。流れ星は良いことだけでなく不吉なことの前兆でもあると歌うものや、唐辛子の植え方、花の咲かせ方、実の付け方を教えてくれる歌もある。一人一人違うデザインの色鮮やかな民族衣装もまた手が込んでいて、非常に魅力的。もう少し狭いホールだったらさらに迫力も感じられただろうと思うが、20年振りの来日で3公演のみとのことなので仕方ない。曲によっては4人だけで歌うのだが、親子ほどの年齢が離れているように見受けられるメンバーが声色を揃えて歌い、こうやって次世代へ伝承されていくのだろうなと感じました。

〔facebookパーソナルページより転載〕