昨年12月20日の演奏会「ロマンの花束」第2回のレビューが『音楽の友』3月号に掲載されました。
三宅麻美
ピアノ・リサイタル・シリーズ
第3回浪漫の花束東京藝術大学、ベルリン芸術大学と同大学院、イモラ国際アカデミーに学んだ三宅麻美は、ベートーヴェン・ソナタ・ツィクルス、ショスタコーヴィチ・シリーズなどテーマ性の高いシリーズ公演を成功させて存在感を示してきた。今回はシューベルトにフォーカスし、第1部では《楽興の時》全6曲を独奏、第2部では望月哲也を招いて《美しき水車小屋の娘》を協演した。三宅のソロはシューベルトの即興的気分と歌心をよく反映させたもの。「第2番」では和音の響きの美しさを引きだし、「第4番」では全休止のあとの中間部を細心の注意をもって音楽的に開始した。「第6番」の内面性の表出も共感を誘う。《美しき水車小屋の娘》でもピアノは全開だが、音量のある望月とのバランスは良好だ。〈第1曲〉、若者のはずむ心を表すピアノの前奏に乗り、望月が溌剌と歌いだす。水車小屋を見つけてはりきる若者。そのテンションを鎮める〈第4曲〉。叩きつけるようなピアノ前奏に導かれて燃える恋心が表現された〈第5曲〉、若者の一方通行の思いに歌い手とピアノが同情を寄せた〈第10曲〉と、物語は切なく進む。狩人登場以降の若者の焦燥、嫉妬、敗北感、絶望感の道筋も望月と三宅は手に取るように伝えてくれた。望月訳のテキストは平易かつ詩的。
●萩谷由喜子会場=王子ホール/出演=望月哲也(T)/曲目=シューベルト《楽興の時》D780、《美しき水車小屋の娘》
『音楽の友』2024年4月号より