『ムジカノーヴァ』2006年6月号

『ムジカノーヴァ』2006年6月号

 「生誕100年ショスタコーヴィチ・イヤーに捧ぐ」を題したこのシリーズでは《24の前奏曲とフーガ》全曲と室内楽が披露される。この巨大なシリーズに挑むのは三宅麻美で、洗足学園音大で後進の指導にもあたっている。東京芸大に学んだ後、イモラ音楽院、ベルリン芸大大学院を修了、ヴィオッティ国際コンクールやフィナーレリグレ国際音楽コンクールなどの入賞歴をもち、国内外のオーケストラと共演するなど、着実にキャリアを重ねている。
当夜はシリーズ第1夜。前半は《24の前奏曲とフーガ》作品87より第1番~第5番、第16番、第17番、第13番そして第12番(演奏順)。この作品集において、ショスタコーヴィチヘの三宅の並々ならぬ思い入れが強烈にアピールされた。作品に対する緻密で考え抜かれた濱奏に支えられ、禁欲的でありながら作品への深い感情移入の感じられる音楽である。しかし、決して開放的に自己の感情を表出するのではなく、内面の静寂を重んじた実に説得カのあるピアノであった。この作品集は2年の歳月を経て作曲されているが、この間にこの作曲家が置かれた社会的な境遇や心理的な変化を、三宅は共感をもって汲みとり、それぞれの作品がもつデリケートな様相を鮮明に浮き彫りにした。特に第2番において、鉛のように重たいタッチから創出される響きは、沈黙の重みを髣髴とさせ、ショスタコーヴィチの抵抗と苦悩が見事に追体験されている。後半は《ピアノ三重奏曲第2番》。ヴァイオリンの清水醍輝、チェロの長南牧人による卓越した演奏は、ピアノを引き立てつつそれぞれの音楽的独創性を尊重しながら、研ぎ澄まされた感性でトリオを築き上げていた。没後100年を記念するにfusa
さわしい、人間ショスタコーヴィチを実感させる演奏であった。
(3月26日、東京オペラシティリサイタルホール)
道下京子