ユリアン・プレガルディエン&エリック・ル・サージュ
〜シューマン 詩と音楽〜
Julian Prégardien & Eric Le Sage
Schumann & Heine @ Oji Hall, Tokyo
シューマンの珠玉の歌曲とピアノ作品を組み合わせた、魅力的なプログラムに惹かれ、仕事の後に王子ホールへ出掛けた。
前半に作品24のリーダークライスと4つの夜曲、後半は詩人の恋とクライスレリアーナから2曲という、ハイネの詩によるドイツ歌曲と、E.T.A.ホフマンの短編集からインスピレーションを得たピアノ小品によるプログラム。
ルサージュのピアノは、機知に富んでいながら非常に柔軟で、即興性のあるところが以前から好きで何度も聴いているが、同じく歌手の父親を持つドイツ人のテノール プレガルディエンを生で聴くのは初めて。噂には聞いていたものの、冒頭からその真っ直ぐで張りのある声と、曲が盛り上がる度に声量が増していく表現に、自然と引き込まれる。ドイツ語の明瞭さが素晴らしく、以前、響き重視のマティアス・ゲルネの歌唱に疑問を抱いただけに、胸が空くような発音の良さが耳に心地よい。
ルサージュのリート伴奏も呼吸を合わせて空気のように寄り添い、テノールとの一体感を成す。ピアノソロの4つの夜曲では、伴奏に比べてさらに奥行きが増す。中音域の音が開き過ぎて扱いにくそうなスタインウェイを弾ききり、第4曲のテーマの再現では、先ほどのリーダークライスの終末感を彷彿とさせ、シューマン独特の現実離れした世界観を感じさせてくれた。
《詩人の恋》では、最新校訂版の楽譜を用いているからか、フレーズの繰り返し部分で耳馴染みのない装飾が入るのに違和感を覚えたが、この曲集をこの2人の組み合わせで、しかも5月のこの季節に聴けるだけで幸せだった。プレガルディエンは特に、第11曲や第15曲などの台詞調の曲に説得力を発揮する。そして第8曲と第9曲の間に、クライスレリアーナから第1曲のみ(プログラムには第2曲も載っていたが、訂正で1曲のみに)をルサージュが弾いたのだが、この形式は今年生誕200年になるクララ・シューマンが実際に行っていたものらしい。その当時は3曲を挿入したそうだが今回は1曲のみで、しかも歌手を舞台の真ん中に立たせたまま弾くのは集中しないのか、輪をかけて早弾きになり、そのまま詩人の恋の第9曲に突入。気持ち乱れたままリズムが疎かになってしまい、今回のピアノ曲挿入は残念ながら功を奏さなかった。しかしルサージュは、それぞれの曲のキャラクターを見事に弾き分け、それらを繋ぎ、またプレガルディエンに欠けている響きの丸みを存分に補充してくれた。
アンコールは同じくシューマンの”月夜”と”献呈”。前者の儚げな高音と、後者の情熱的で潔い高音の歌い分けが見事だった。
〔facebookパーソナルページより転載〕