昨日、念願のミュシャの展覧会に出掛けました!
The year of Czech culture 2017
Alfons Mucha @ the National Art Center, Tokyo
チェコ語ではムハと発音するミュシャの展示はこれまでに何度か観たが、ポスターやカタログの表紙など、絵画というよりイラストデザインの印象が強く、はっきり言ってジッと観入るような絵には出会わなかった。だが、今回は違った。
『スラヴ叙事詩』
The Slav Epic/Slovanská epopej
パリやアメリカで活躍していたミュシャが50歳で故郷に戻り、晩年の16年を費やし、チェコの全国民に捧げた作品で、スラヴ民族にまつわる神話や歴史を題材にした、20点からなる大作。
話には聞いていたものの、展示室に入ってまずその大きさに驚く。絵というより巨大なタペストリーのようで、一枚というより壁一面という感じ。
そしてその絵を眼の前にすると、暖色も寒色も薄いヴェールを一枚まとったかのように統一された独自な色彩と、画面のどこを切り取っても完璧に描かれた筆の緻密さと、画面全体から放たれる画家の壮大な思想に圧倒され、身震いする。
スラヴの原故郷が描かれた1枚目には神話の青色が用いられ、満点の星に包まれながら、他民族の争いには加わらず、草むらに潜むスラヴ民族の原点を見る。
ちょうど私達の目線上になるように、等身大に描かれた人物のおびえた表情は、行き場のない悲しみや戸惑いと、それでも必死に耐え抜いていく芯の強さを物語っている。
スラヴの栄光が廃れていく様子を描いた2枚目の祭りの絵では、基調の色として敗北の白が使われている。
全ての絵において共通するのが、題材そのものより、その場で抱かれる民衆の感情に焦点を当てて描かれていることなので、必然的にひとりひとりの表情に目が行く。哀れな楽士や彫刻師 、それを慰める文芸の女神など、画家が模索していたであろう芸術の意義も垣間見える。
そして細部に至る描写の仕上がりが凄い。民族衣装、身に付ける装飾品、髪飾りの花々、植物、草むらや麦わらの一本までが丹精に描かれる。それまでに積み重ねたミュシャ芸術が活かされて、まさに集大成となっている。
他にギリシャ正教にスラヴ式典礼を導入した場面や、スラヴ文学の礎を築いたブルガリア皇帝、スラヴ民族の統一として描いたボヘミア王族とハンガリー王族の婚礼、スラヴ人皇帝の誕生など、その都度、民衆の想いに共感し、まるで自分もスラヴ人になったかのような感覚になる。
その感覚こそ、芸術の意義だと思うと同時に、全てを注いで作品を完成させたミュシャという一人の人間の持つ力に驚嘆する。
帰り道、魂を揺さぶられるスラヴの音楽を目一杯聴きたく、そして弾きたくなった。
来月8日までの開催です。
まだの方は是非観てください!
〔facebookパーソナルページより転載〕