季節外れの生暖かい風雨の中、マリア・ジョアン・ピレシュのシューベルトを聴きにサントリーホールへ。今回は音楽というよりも、ピレシュという愛情溢れるひとりの人間に触れたいとの思いで、舞台後方席から聴いた。
A-Durソナタの出だしの何と美しいこと。
留学中から良く実演を聴いてきたが、いつからか小さくて細い身体を振り絞って腕を動かす打鍵が痛々しく感じて生を聴きたいと思わなくなっていたのだが、この日は弱打はもちろんのこと、強打するのにも意欲が漲っていて余計なものをようやく脱ぎ捨てたような、何か突き抜けた感じがした。奔放な語り口で始まったドビュッシー ベルガマスク組曲も特に第2、第4曲の舞曲のリズムが見事で、身体全体から躍動感が溢れていた。そして後半、遂に近々取り組もうと思っている長大なB-Durソナタも自然な呼吸感とともに脈々と流れて行き、あっという間に終楽章の愉悦に到達、このソナタをこんなに短く感じたことはなく、80歳近くになって演奏活動を再開した理由を存分に聴かせてくれた。
先日のアルゲリッチといい、人生何があろうとピアノを弾き続けること、音楽に向き合い続けることの意味を教えられたような気がする。