@Hamarikyu Asahi Hall, Tokyo
Program
Tchaikovsky: Les Saisons
Prokofiev: Sarcasms, Toccata
Schumann: Novelette Nr 8, Fantasie
ゲンリフ・ネイガウス直伝のロシアピアニズムを継承するピアニストとしては今やもうほぼ最後の存在となってしまったエリソ・ヴィルサラーゼが、今年も非常に興味を唆られるプログラムとともに来日してくれた。
チャイコフスキー 四季(1月〜8月)は冒頭から、まるで自宅のピアノで弾き出したかのようごく自然で温かな息づかいと集中力で聞かせる。それぞれの曲の性格を、あたかも匂いを嗅ぐかのように瞬時に掴み、移行していく。これまでにも増してその瞬間は冴え渡っていて、息つく暇もなくガラッと雰囲気を変える巧さに脱帽する。豊富なピアニッシモ層のグラデーションと、身体に染み付いた語り口を堪能した。
プロコフィエフは一転、乾いたペダリングや禁欲的な響きで輪郭のみを提示しながら進む。グロテスク過ぎる表現を嫌い、どれも足早に過ぎ去り、曲のエッセンスが凝縮、圧縮されたような表現が新鮮だった。
後半、お得意のシューマンは俄然音に膨らみが出て、響きに色彩が増す。ノヴェレッテは留学中のミラノでも聴いたことを、つい先日のように思い出し、あれから20年も経つのにまるで色あせることのないピアニズムを聴きながら、学生時代彼女のレコードを聴いて以来、何にこんなに惹きつけられるのだろうと考えてみる。ロシア・ピアニズム特有の息の長いフレーズはもちろん、“徹底”した声部間のバランスと鋭敏なリズム感、そして感情に飲み込まれ過ぎない凛とした表現に惹きつけられ、また音楽に対する彼女の信念の強さに心から共感しているのだなと思う。70代後半になってもこのエネルギー、ただ敬服!!
〔facebookパーソナルページより転載〕