CD『24の前奏曲とフーガ』の批評が2008年3月16日の公明新聞に載りました
◆スターリン体制下の熾烈[しれつ]な芸術批判地獄を果敢に生きぬいたしたたかな作曲家、というイメージもあれば、交響曲第5番の闘争と勝利のテーマでもお馴染みのショスタコーヴィチだが、彼にはピアノ音楽作曲家としてのもうひとつの顔もあった。それに光を当てたのが、生誕100年にあたる2006年に日本の若手、三宅麻美の開いた意欲あふれるリサイタル・シリーズだった。彼女はショスタコーヴィチがバッハのひそみにならって書いた彼のピアノ音楽の集大成に挑み、おそらく日本人初の全曲公開演奏を達成したのだ。この『24の前奏曲とフーガ』(Regulus RGCD-1018 3枚組5250円)は翌年にセッションで録音された労作。音のみずみずしさと粒立ちのよさが、一見難解そうなこの作品への耳を、やさしく開いてくれる。録音も秀逸。
(音楽ジャーナリスト・萩谷由喜子)