『音楽の友』3月号に12月27日の演奏会レビュー

昨年末の「ベートーヴェン生誕250年プレイヴェント 三宅麻美ベートーヴェン・リサイタル」のレビューが『音楽の友』3月号に掲載されました。

12月27日・ヤマハ銀座コンサートサロン●ベートーヴェン「ドレスラーの行進曲の主題による9つの変奏曲」「創作主題による6つの変奏曲」「ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲」
 東京藝大、ベルリン芸大、イモラ音楽院で研鑽を積みながら国内外で活躍の三宅が、拠点を日本に移してからも企画力に富んだ活躍を展開している。2010~17年にベートーヴェンのピアノ・ソナタ、室内楽(ヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタ、トリオ)の全曲演奏会。そして当夜、長年温めていたという「ディアベッリ変奏曲」をメインに、ベートーヴェン生誕250周年前年(2019年)にプレイヴェントを開催。
 言うまでもなくベートーヴェンはソナタ形式に金字塔を建てたが、変奏形式においても然り。ベートーヴェン最初の変奏曲である「ドレスラー変奏曲」(1782年作)から開始の三宅。後の楽聖の幼少期の作品とはいえ、その後を啓示しているかのようなエネルギーで、それを三宅は優しい眼差しのように主題から紡いでいく。変奏を重ねながら、その先の「ディアベッリ変奏曲」の予告すら感じさせる表現に甚だ感心。「創作主題による変奏曲」(1802年作)ではベートーヴェンの筆致も濃く、ロマン派の曙の趣。そして後半の「ディアベッリ変奏曲」(1823年作)。明るい主題のあと、いきなり重厚に(Ⅰ)。かと思うと軽快になり(Ⅱ)、しばらく楽しいお喋り。シリアスな話題に変わり(Ⅳ)、以降めくるめく豊富な知識が愉しく語られる。1時間ほどの大曲なのだが、三宅がこれまで培ってきた“ベート—ヴェン”学が見事に咀嚼されているため、高く険しい山道も心地良く歩けた感覚。33の変奏の中にはベートーヴェンのすべてがあり、三宅という名道案内のお陰で素晴らしい風景の、また新しい魅力も味わえた。これは世界のどこに出しても誇れる「三宅のディアベッリ変奏曲」と言える。
●上田弘子

『音楽の友』2020年3月号より

音楽ジャーナリスト池田卓夫氏によるコンサート・レビュー

三宅麻美ベートーヴェン・リサイタル「生誕250年プレイベント」
(2019年12月27日、ヤマハ銀座コンサートサロン。使用ピアノ=ヤマハ)
本編=ベートーヴェン「ドレスラーの行進曲の主題による9つの変奏曲ハ短調WoO.63」
「創作主題による6つの変奏曲ヘ長調作品34」「ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲ハ長調作品120」
アンコール=シューベルト「ディアベッリのワルツによる変奏曲(第38変奏)ハ短調D.718」

三宅との初対面が実現したのは2006年。もう13年も前の出来事だ。当時のライヴ、「24の前奏曲とフーガ」のCDなどのショスタコーヴィチ演奏を通じ、三宅が高度の技術(メカニック)と魅力的な音色を備えながら、それを効果(エフェクト)に使う場面を戒め、作曲家の内面を探索するためのツールとして使い尽くす潔さに感銘を受けた。「ちゃらちゃらした人気には無縁だろうけど、一歩ずつ確実に内容を深め、支持者を増やしていくだろうな」と確信した。2010-2017年のベートーヴェン「ピアノ・ソナタ全曲(32曲)」演奏会には、いつもあれこれ重なってうかがえず、よい評判を聴くたびに残念で申し訳ない思いをしたが、今年も押し詰まり、2020年のベートーヴェン・イヤー目前のところで「ディアベッリ」が聴けるというので、早くから予定に入れていたリサイタルである。

三宅は「楽曲解説を載せない代わり」と前置きのうえ、それぞれの作品の背景や魅力を演奏の前に語る。「WoO」(作品番号なしの作品)表記を伴う初期作品の「ドレスラー…」についても、「ベートーヴェンにとって《運命の調性》となったハ短調で書かれた」の説明が伴えば、より興味深く聴ける。前半2曲はどちらかと言えばあっさり、啓蒙的視点からの作品紹介に徹していたが、「ディアベッリ」では勇猛果敢な演奏家魂が全開した。とりわけワルツ(4分の3)以外の拍子を採用した変奏の数々に目を向け、作曲家の反骨精神や挑発、実験志向を丁寧に解きほぐしつつ、着地まで飽きさせずに聴かせた。「ソナタ全曲を終えたら《ディアベッリ》と思っていました」という三宅の夢は、かなり高い次元でかなった。

iketaku honpoより一部転載させていただきました〕

『音楽の友』2月号「音楽評論家・記者が選ぶコンサート ベストテン2018」選出

お知らせが遅くなりましたが、大変名誉なことに 雑誌『音楽の友』2月号の音楽評論家・記者が選ぶコンサート ベストテン2018に、一昨年12月のベートーヴェンピアノソナタ全曲演奏会最終回を選んでいただきました!(音楽評論・上田弘子氏選出)

身の引き締まる思いです。これからも弛まず高みを目指して精進いたします。

『音楽の友』2018年3月号「ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全曲演奏会」最終回

『音楽の友』2018年3月号153ページ「Concert Reviews」に「ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全曲演奏会」最終回(2017年12月4日。ヤマハ銀座コンサートサロン)の批評が掲載されました。(筆者:音楽ジャーナリスト 上田弘子氏)

「弦作品も演ることで理解が深まる」と、三宅が2010年に開始した「ベートーヴェン/ソナタ全曲演奏会」(p、vn、vcソナタ、pトリオ)。弦の方は2013年に完奏し、このたびピアノ・ソナタの最終回(全9回)。毎回よくぞここまでと驚異の読譜と表現力で、〝楽聖〟最後の3つのソナタでも培ってきた事が示された。1ページ目から変化に富んだ「第30番」を、三宅は粛々と弾き進める。緩急も前後の脈絡が完全理解のため自然で、新たなソナタ形式を示した作曲家の代弁のよう。「第31番」は優しいピアノ・トリオのような第1楽章と決然とした第2楽章との差異が新鮮で、第3楽章への繋ぎがまた巧い。この第3楽章は当夜の白眉。静寂のアダージョは名歌手のように歌われ、底から静かに立ち上がってくるフーガの神々しさ。少しずつ重なり厚くなる主題は聴き手の五臓六腑にまで刺さる。それも感動の和声で。そして最後の「第32番」。冒頭の減七の跳躍を三宅は左手で取り、その良質の緊迫感で畳み込んで行く。確実に刻むリズムに独語の発音が在り、ゆえにすべての音符に説得力。終楽章の主題は、より厳格な拍感の方が以降の変奏が際立ったのではと、名手ゆえにこちらも欲が出る。いずれにしても祝・完奏。

(12月9日・ヤマハ銀座コンサートサロン)〈上田弘子〉

 

『音楽の友』2017年11月号「Scramble Shot」柴田欽章さんとの共演

『音楽の友』2017年11月号 巻末7~8ページ「Scramble Shot」に、8月6日 (日) 柴田欽章さんとの共演について「…この日も名パートナーを務めた。…(支えた三宅の構成力!)…」との批評が掲載されました。(筆者:音楽ジャーナリスト 上田弘子氏)